温暖化対策はCO2削減だけじゃない?気候変動に適応するという考え方
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温暖化対策はCO2削減だけじゃない?気候変動に適応するという考え方

地球規模の気候変動を引き起こし、自然環境や私たちの暮らしに大きな影響を及ぼすと考えられている地球温暖化。その影響はすでに、海水面上昇による高潮被害の増加や、農作物の収穫量・品質変化などの形で現れています。

執筆者:関口 貴令

地球規模の気候変動を引き起こし、自然環境や私たちの暮らしに大きな影響を及ぼすと考えられている地球温暖化。
その影響はすでに、海水面上昇による高潮被害の増加や、農作物の収穫量・品質変化などの形で現れています。

SDGsの目標13は「気候変動に具体的な対策を」です。ターゲットは以下の通りです。

13.1 すべての国々において、気候変動に起因する危険や自然災害に対するレジリエンスおよび適応力を強化する。
13.2 気候変動対策を国別の政策、戦略および計画に盛り込む。
13.3 気候変動の緩和、適応、影響軽減、および早期警告に関する教育、啓発、人的能力および制度機能を改善する。
〔引用:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン〕

気候変動の進行を食い止めるための最も重要な対策と考えられているのが、CO2を始めとする温室効果ガスの削減です。
CO2排出量削減が世界規模で推し進められていることは、すでにご存知かと思います。

その一方で、気候変動の影響に対して、損害を和らげる、または有益な機会と捉えて自然や人間社会のあり方を調整していく「適応」という考え方があります。
CO2削減を進めた上でも気候変動が避けられない場合には、私たちの暮らしを守り豊かにしていくためにこの考え方が大切となります。

気候変動への適応は具体的にどんな事例があるのでしょうか。私たちにできることはあるのでしょうか。本記事を通して一緒に考えていきましょう。

数ある産業の中で、農業は温暖化の影響を直接的に受ける代表的な分野の一つです。

すでに日本全国では、高温によりコメの胴に亀裂が入るといった障害が増えたり、日照時間の増加で果物の日焼け発生、着色不良などの被害が増えたりしています。

愛媛県の代表的な作物といえばみかんですが、県南地域では平均気温の上昇により温州みかんの高温障害が多発しています。これを受けて、夏場の高温にも強いブラッドオレンジの品種である「タロッコ」や「モロ」が導入され、農家の危機を救いました。また、愛媛県松山市では、国産アボカドの生産が進められており、温暖化に適応した新たな農作の試みが行われています。

世界規模の農業への影響に目を向けると、コーヒー栽培適地の減少が問題としてあげられます。気温や湿度の上昇、降雨量減少により、2050年にはアラビカ種のコーヒー栽培に適した土地は現在の50%にまで縮小するという報告もあります。コスタリカやエルサルバドルといった中南米の産地ではすでに、2012年頃から広がり始めた「さび病」のせいでコーヒーの生産量が減少しています。

こうした状況に対し、スターバックスは暑さに強い新たな品種を開発し、2025年までに1億本のコーヒーの木を植えると約束しています。またキーコーヒーは、収穫後にコーヒー豆を氷温熟成させる新加工技術を開発しており、温暖化による劣化が懸念されるコーヒー豆の品質向上を目指しています。

地球温暖化により、南極大陸の氷が解けて海面が上昇し高潮の被害増加が問題化していることはよく知られています。
そして北極海もまた、海に浮かぶ氷の量が少なくなる「薄氷化」が進んでいます。しかしこのことによって、北極海を通る新しい航行ルートが開拓されるようになってきています。

デンマークの海運大手A.P.モラー・マースク社は、2018年にコンテナ船としては初めての、北極海航路の試験航行を成功させました。これまで、北極海航路を航行するには砕氷船のエスコートが必要とされてきましたが、航路海域の気温上昇により実行可能性が変わったとのことです。北極海航路を取ることで、従来の航路よりも2週間早く目的地に到着することができます。

同社は北極海航路が商業的に既存ネットワークの代替になるとは考えていないようですが、温暖化をプラスに捉えた面白い取り組みと言えるでしょう。

これまで気候変動への適応の事例を紹介してきました。気候変動に適応するための活動を行っていく上で、気候変動の影響や将来予測を知ることは非常に重要です。

気候変動の影響は、上に事例を挙げた農作物への影響以外にも、

●夏季の気温上昇による畜産の品質への影響
●豪雨の発生による土砂崩れ等の山地災害増加
●海洋生物の分布域変化による漁獲量の変化
●水温上昇による湖の水質悪化
●天然林の適域変化による自然遺産への影響
●熱中症による搬送者数の増加
●感染症の拡大

など、多岐に渡ります。それに伴い、課題解決のために多くのビジネスが生まれる可能性もあると考えられます。
日本における気候変動の影響は環境省より発表されているレポート(参考文献に掲載)にまとまっているので、ぜひ一度ご覧になってみてください。

気候変動は、私たちの暮らしに多くの影響を及ぼします。温暖化防止活動に私たち一人一人が理解し参加していくことも大事ですし、すでに起きている気候変動に対してできることを考えていくためにも、まずは気候変動について知ることから始めてみてはいかがでしょうか。

・気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~
・BUSINESS INSIDER 朝のコーヒー習慣が危機に!スターバックスのシュルツ元会長、気候変動の影響を指摘
・キーコーヒー株式会社 豆をとりだす前のコーヒーチェリーを氷温熟成®すると、「香り」、「味わい」が向上する効果があることを確認
・BBC NEWS JAPAN デンマークのコンテナ船、砕氷船なしで初の北極海航路航行へ