SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」~世界中の全ての人が健康で長生きするためにできることは~
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SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」~世界中の全ての人が健康で長生きするためにできることは~

今回の記事では、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」(Goal 3: Good Health and Well-Being)について、世界の現状と目標達成に向けた取り組みを紹介します。

執筆:福田 武司

健康な生活を送ることは世界中の全ての人にとって最低限求められることで、SDGsの中でも必要不可欠な内容です。SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」の中では、特に開発途上国で問題となっている、新生児や若年層、妊婦などの死亡率を十分な予防と治療で下げることや、薬物・タバコ・環境汚染などの広く健康に影響を与える因子についても掲げられています。

この目標がなぜ必要であるのか?世界の健康や福祉の現状と課題を見ていきましょう。

実は世界中を見渡すと、5歳未満児の死亡が大きな社会問題になっています。

日本に住んでいると子供が死んでしまうことはあまり想像できません。ただ、世界では毎日のようにたくさんの5歳未満児が死んでしまっているのが現実です。


例えば、各国の人口1000人あたりの5歳未満児の死亡率は下記の通りです。日本などの先進国では1%以下の死亡率ですが、開発途上国では10%を超える死亡率の国も多く、大人になる前に死んでしまうのです。そのため、日本に住んでいる限りは身近な課題として実感できませんが、全世界で見ると3.9%の子供が5歳未満で死亡しているのです。これは世界規模で解決しないといけない問題です。



人口1000人あたりの5歳未満児の死亡率
日本 2人
韓国 3人
英国 4人
ドイツ 4人
アメリカ 7人
インド 37人
エチオピア 55人
コンゴ民主共和国 88人
ギニア 101人
中央アフリカ共和国 116人
チャド 119人

国際社会全体で医療格差を解消するために色々と取り組んできた成果として、1990年には年間1,260万人もいた5歳未満児の死亡数が2016年には560万人に半減しています。これは大きな前進である一方、はしかや結核など、予防可能な病気で毎日1万6,000人もの子供が命を失っているのも事実です。

5歳未満児以外でも、開発途上国では妊娠と出産時の合併症で死亡する女性は毎日数百人にもなります。また、農村部では医療専門家の付き添いのある出産件数がわずか56%しかないのです。さらに、サハラ以南アフリカでは、HIVが思春期の若者世代で最大の死因となっています。


「2017 UHCグローバルモニタリングレポート」によると、全世界では未だ人口の半分(35億人)が基本的な医療サービスにアクセスできていないのです。さらに、世界では約8億人が世帯総支出の10%を超える医療費を負担しており、医療費負担が原因で毎年1億人近くの人が貧困で苦しんでいるとも言われています。もちろん、最低限の医療が保証されていない地域では、十分な福祉も提供されていません。


では、当たり前のように医療や福祉が提供されている日本とは何が違うのでしょうか?


その大きな要因としては、「病院が少ない」「不衛生な環境」「十分な数の薬がない」「ワクチンがない」などがあります。また、根本的に収入が少なすぎて医療や福祉に使うお金がない人がたくさんいることも忘れてはいけません。


そのため、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」はこういった医療や福祉の格差をなくしていくことが必要不可欠です。

世界中でこのSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」を達成するための具体的な取り組みが進められています。以下ではいくつかの事例を紹介します。

【事例①:蚊帳でマラリアに苦しむ人々の命を救う】

住友化学株式会社が就寝中にマラリアに刺されて病気になる人を減らすために、ポリエチレンにピレスロイドという防虫剤を練りこんだ蚊帳(オリセットⓇネット)を製品化しています。この蚊帳はマラリアが嫌がる薬剤が徐々に表面に染み出してくるので、2001年には世界保健機関(WHO)から世界で初めて長期残効型蚊帳としての効果が認められ、使用が推奨されています。現在、国連児童基金(UNICEF)などの国際機関を通じて、80以上の国々に供給されています。

日本ではあまり蚊帳を使わなくなりましたが、多くの国では寝ている最中にマラリアに刺されて死ぬ人が絶えません。蚊にさされるということは日本人の感覚だとちょっとかゆいくらいですが、一部の国の人にとっては死に直結することもあります。蚊帳という一見地味な製品ですが、その効果は絶大で世界中の多くの人を救ってきました。

医療行為の前に病気にならないためにできる工夫はたくさんあります。現実問題としてはどこまでお金がかけられるかという課題はありますが、世界中の英知を集めれば開発途上国の環境改善に繋げることができます。

【事例②:超音波エコー装置で開発途上国の妊産婦を救う】

レキオ・パワー・テクノロジーは、スーダンに誰もがエコー検診できる装置を提供することで、開発途上国での妊産婦や新生児の死亡率を下げる取り組みを進めてきました。このエコー検診は、2015年11月~2018年5月に実施された独立行政法人国際協力機構(JICA)の企業連携プログラムで試験運用を行いましたが、そこで45人の助産師によって5,572人の妊産婦の診断が行われました。その結果、異状が疑われる症例が1,408件も発見されて、帝王切開が可能な上級病院へ行くことが促されています。このような取り組みのように、必要な診断や適切な処置をすることが妊産婦や新生児の命を守ることに繋がっていきます。

次の段階としては、経験の浅い開発途上国の医師が撮影した動画を使って遠隔地の経験豊富な医師の指導、多くの疾患例のデータベースを活用することで僻地の医師のスキルアップを活用できるというメリットもあります。先進国なら当たり前のようにできる医療技術や近年急速に進展しているITやインターネットを組み合わせていくと、物理的な距離や費用も気にしなくても良い医療を提供できる可能性がでてきます。こういった取り組みが開発途上国の医療体制を改善させ、目標3「すべての人に健康と福祉を」で掲げているすべての人が最低限の医療を受けることに繋がっていきます。

【事例③:手洗いの啓発活動や衛生教育を通じた健康促進】

世界規模で見たときには医療体制の確保だけでなく、日常生活の中でも病気予防の取り組みとの両立が必要になってきます。そもそも病気になる人を減らすことができれば、死亡リスクを下げるだけでなく、医療機関への負担を減らすことができます。

例えば、オランダとイギリスに本拠を置く世界有数の一般消費財メーカーのユニリーバでは、「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」(USLP)の大きな目標の一つとして「2020年までに10億人以上のすこやかな暮らしを支援する」ことを掲げています。2018年末までに12億4,000万人を支援し、2020年の目標を2年前倒しで達成しています。
この活動の一例として、ライフボーイ(石鹸)では、対面プログラムやテレビでの訴求を通じ、10億人以上に正しい手洗いを啓発しました。また、ドメスト(洗剤クリーナー)では衛生教育やパートナーシッププログラムを組み合わせて、清潔なトイレの普及を進めています。
日本の公衆トイレは世界的に見ても非常に清潔ですが、開発途上国では不衛生なことが多く伝染病の一因になっており、清潔なトイレは伝染病予防にとって重要な役割を担っています。さらに、シグナル/ペプソデント(歯磨き)では、2018年末までに8,350万人に朝晩歯みがきをする習慣を啓発しました。

このような我々日本人にとって当たり前に思えるようなことを開発途上国に広げていくことで、病気になってしまう人を減らしていき、脆弱な医療体制にかかる負担を減らしていくことも、SDGs目標3達成には重要です。もちろん、COVID-19の感染拡大にもこういった基本的な公衆衛生が有効な手段になってきます。

【事例④:オンライン診療でコロナ禍の感染対策だけでなく世界中の医療格差へ】

新型インフルエンザ、エボラ出血熱、SARS、MARSなどの新興感染症の発生頻度が21世紀になって急速に上がってきています。これはどこかの地域で発生したウイルスが発達した交通手段で世界中に広まっていることが原因だと言われており、COVID-19を含むウイルスによる感染症対策は地球規模で解決しないといけない重要な課題です。

このコロナ禍において、SDGs目標3達成に繋がる取り組みが一つでも多く生まれてくることが期待されています。その一つが世界中で急速に進められているオンライン診療です。今やオンライン診療は入院・外来・在宅につぐ4つ目の診療概念になりつつあります。ただ、2019年度ではオンライン診療の保険適用を申請していた医療機関は1%程度に留まっていました。それが、コロナ禍で急速に広がっていきました。

中国電子商取引大手アリババ集団傘下にある阿里健康(アリヘルス)は、コロナ禍で封鎖状態であった湖北省の住民に対して「オンライン診療所」を開設し、住民10万人に対し無料診察を行いました。

また、イギリスではコロナ禍での対面診療を減らすために、電話やビデオ通話を通じたトリアージを実施するように、2020年3月5日にNHS(公的医療保障制度)から医療従事者へ向けて通知されました。トリアージとは、傷病者など治療を受ける必要のある人々の、診療や看護を受ける順番などを決定する診療前の1つの過程です。そのため、診療の優先順位をつけて、最適な医療を提供する体制を作ることができます。そうすると、コロナ罹患者のように緊急な処置が必要な患者とそうでない患者を効率的に選別できます。その結果、病院での感染拡大の抑制だけでなく、医療体制の効率活用につながります。医療機関ではなくて、国が主導してオンライン診療を進めていくことが、急速な普及に役立ちます。

オンライン診療は短期的にはコロナ禍の感染拡大を抑制することに主眼が置かれています。ただ、長期的には病院に行くのが困難な高齢者や過疎地の医療脆弱地でもオンライン診療の技術が活用できます。もちろん、アフリカの僻地の診療所と日本の大学病院をつないだ医療も低コストで提供可能です。そういった取り組みが世界における医療格差を少しでもなくしていくことに繋がっていくと期待されています。

我々が当たり前に思っている日本の医療や福祉は、実は世界的に見たらトップレベルなのです。一方で最低限の医療すら受けられずに死んでしまう人が大勢います。 では、我々には何ができるのでしょうか?

世界中には医療や福祉の恩恵を受けられずに苦しい生活をしている人がたくさんいることを認識し、それに対して何ができるかを考えることが最初の一歩です。一人一人が出来ることは限られているかもしれません。でも、小さな一つ一つの活動を多くの人が行うことで、世界中に大きなうねりを引き起こせます。

何かの商品を買ったら開発途上国にワクチンを寄付するような取り組みや募金、ボランティアなど本気で探せば、いくらでもやれることはあります。一人一人が勇気を出して、自分なりの活動に取り組んでいけば良いのです。是非、世界中に医療や福祉が当たり前のように広まって、健康で人間らしい生活を送れるようにしていきましょう。

・外務省「持続可能な開発のための2030アジェンダ」
・世界こども白書2019
・ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に焦点を当てる:グローバル・モニタリング報告書
・住友化学株式会社 住友化学のマラリアへの取り組み
・JICA広報誌mundi2019年2月号 超音波エコー装置が保健サービスを変える スーダン
・新型コロナで問われるオンライン診療の価値 海外事例から見る医療環境の変化

SDGs目標3は「すべての人に健康と福祉を」とありますが、そもそも具体的にはどういったことなのでしょうか?



国際連合広報センターサイト「JAPAN SDGs Action Platform」における「持続可能な開発のための2030アジェンダ 仮訳(PDF)」によると、以下のように記載があります。

目標3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
3.1 2030 年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10 万人当たり70 人未満に削減する。
3.2 すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000 件中12 件以下 まで減らし、5 歳以下死亡率を少なくとも出生1,000 件中25 件以下まで減らすことを目指し、2030 年までに、新生児及び5 歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。
3.3 2030 年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。
3.4 2030 年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3 分の1 減少させ、精神保健及び福祉を促進する。
3.5 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。
3.6 2020 年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。
3.7 2030 年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が利用できるようにする。
3.8 すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・ カバレッジ(UHC)を達成する。
3.9 2030 年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。
3.a すべての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する。
3.b 主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS 協定)及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特にすべての人々への医薬品のアクセス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定 (TRIPS協定)」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである。
3.c 開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。
3.d すべての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。