SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」~Honda独自のAI音声認識システムで聴覚障がいのある従業員と職場メンバーのコミュニケーションをサポート~
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SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」~Honda独自のAI音声認識システムで聴覚障がいのある従業員と職場メンバーのコミュニケーションをサポート~

日本が世界に誇る大手輸送機器メーカーHondaの先端科学技術により開発した聴覚障がい者と健聴者の双方向コミュニケーションをサポートするシステム「ホンダ・コミュニケーション・アシスタンス・システム」についてご紹介いたします。

世界の最富裕層の10%が全世界の所得の40%近くを占有しています。国際社会は、人々の貧困脱出に向け努力を続け、いくつかの国では所得の不平等は改善の兆候もありますが、不平等は依然として続いています。

外務省 SDGsサイト「JAPAN SDGs Action Platform」における「持続可能な開発のための2030アジェンダ 仮訳(PDF)」によると、以下のように記載があります。

目標10 国内および各国間の不平等を減らす
10.1 2030年までに、各国の所得下位40%の所得成⻑率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる。
10.2 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。
10.3 差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、ならびに適切な関連法規、政策、行動の促進などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する。
10.4 税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する。
10.5 世界金融市場と金融機関に対する規制とモニタリングを改善し、こうした規制の実施を強化する。
10.6 地球規模の国際経済・金融制度の意思決定における開発途上国の参加や発言力を拡大させることにより、より効果的で信用力があり、説明責任のある正当な制度を実現する。
10.7 計画に基づき良く管理された移民政策の実施などを通じて、秩序のとれた、安全で規則的かつ責任ある移住や流動性を促進する。
10.a 世界貿易機関(WTO)協定に従い、開発途上国、特に後発開発途上国に対する特別かつ異なる待遇の原則を実施する。
10.b 各国の国家計画やプログラムに従って、後発開発途上国、アフリカ諸国、小島嶼開発途上国及び内陸開発途上国を始めとする、ニーズが最も大きい国々への、政府開発援助(ODA)及び海外直接投資を含む資金の流入を促進する。
10.c 2030年までに、移住労働者による送金コストを3%未満に引き下げ、コストが5%を越える送金経路を撤廃する。


目標10「人や国の不平等をなくそう」達成には、障がい者、高齢者、子供、女性、移民・難民など最も脆弱な立場に置かれた人々のニーズに配慮しつつ、普遍的な政策を採用していく必要があります。

今回はその政策事例として、日本が世界に誇る大手輸送機器メーカーHondaの先端科学技術により開発した聴覚障がい者と健聴者の双方向コミュニケーションをサポートするシステム「ホンダ・コミュニケーション・アシスタンス・システム」についてご紹介いたします。
本田技研工業株式会社は、Hondaの先端科学技術の研究を担う、株式会社ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン(以下HRI-JP)が開発した、聴覚障がい者と健聴者の双方向コミュニケーションをサポートするシステム「ホンダ・コミュニケーション・アシスタンス・システム(以下Honda CAシステム)」の社内利用を2020年9月から本格的に開始しました。
Honda CAシステムは、Hondaの基本理念である「人間尊重」を背景に、2017年より開発プロジェクトがスタート。 開発のきっかけは、 現場における聴覚障がいのある従業員とのコミュニケーションでした。 聴覚障がいのある従業員と健聴者との主なコミュニケーション手段は筆談ですが、会議の場などリアルタイムに双方向でのコミュニケーションが求められるシーンでは、意思疎通の正確性、スピードなど多くの課題がありました。現場での課題を聞いたHRI-JPの技術者が、 Hondaの持てる技術を活かし、 聴覚障がい者と健聴者のコミュニケーションを円滑にしようと立ち上がったのが、Honda CAシステム開発プロジェクトのスタートでした。

開発においては、HRI-JPがホンダ太陽株式会社・ホンダR&D太陽株式会社と共同開発を行い、2020年9月より、Hondaグループ内事業所において本格利用を開始しました。

<Hondaの基本理念「人間尊重」/独自の議論方法“ワイガヤ”について>

Hondaは創業以来「人間尊重」という基本理念に基づき、 国籍、 性別、 障害の有無など、 それぞれの属性にかかわらず多様な人材が活躍できる環境整備を進めています。また、自由闊達な議論を通じて、独創的な考え方や解決方法などを見つけ出すHonda独自の議論方法“ワイガヤ”は、Hondaグループ会社の各事業所にて日々実践されています。

Honda CAシステム導入により、多様な人材が、それぞれ置かれている状況に関わらず、パフォーマンスの最大発揮を見込むことができるようになりました。
Honda CAシステムは、 Honda独自のAI音声認識技術を活用し、発話内容をリアルタイムかつ高い正確性でテキスト表示するとともに、聴覚障がい者がすぐに意見を提示できるようにした、コミュニケーションシステムです。

Honda CAシステムはマイク、音声認識サーバー、テキスト配信PC、テキスト表示用タブレット・スマートフォン等で構成されています。発言者がマイクに向かって発言すると、AI音声認識システムが発話内容をテキストに変換、テキスト配信PCを通じてタブレットやスマートフォンにテキスト表示します。
<Honda CAシステムの特長>

■リアルタイムで正確性の高い音声認識
・Honda独自の技術として、スピード重視型、正確性重視型の2つの音声認識エンジンを使用し、リアルタイム表示と正確性の高いテキスト変換を両立しています。
・発話と同時に自動的に音声認識を開始。発話ボタンや、音声認識を開始するためのウェイクアップワードが不要なので、会議の流れやコミュニケーションを妨げません。
・Hondaの社内業務を考慮したチューニングにより、社内専門用語も高い正確性で変換可能です。

■聴覚障がい者向け双方向コミュニケーションインターフェース
・音声認識に加え、キーボード入力や手書き入力でも簡単に発言可能。入力開始と同時に画面色が変わり、発言の意志を表すなど、聴覚障がい者が議論の輪に入りやすい工夫をしています。
・一つの画面に全員の発言が表示され、会議の流れを把握しやすくなっています。

■オンライン会議に対応
・在宅勤務時にも打ち合わせができるよう、オンライン会議に対応しています。
<Honda CAシステムを導入している事業所> ※2020年12月現在

ホンダ太陽、ホンダR&D太陽、 Honda内の各事業所(二輪事業本部ものづくりセンター 2020年1月~、 四輪事業本部ものづくりセンター 2020年9月~、 埼玉製作所寄居工場 2020年9月~)

<Honda CAシステム導入による効果>

Honda CAシステムを導入することにより、聴覚障がい者が会議の流れを把握しやすくなり、タイムリーに発言できるようになったことで、チームの一体感や、仕事へのモチベーションが向上する(ホンダR&D太陽の聴覚障がいのある従業員6名の調査による)という効果が出ています。

また、内容のすべてを筆談する必要がなくなったことで、筆談者の負荷が減り、会議時間が2~3割短縮される効果も確認できました。
<ユーザーの声>

・リアルタイムに理解でき、タイミングよく意見を主張できるので、会議参加の実感が得られ、モチベーションにつながる。
・仕事の経緯が分かるので、納得して仕事に取り組める。
・打合せに主体的に参加できるようになり、朝礼の司会など新しい役割にもチャレンジできている。
・筆談負荷が大幅に減り、会議に集中できて本当に助かる。
聴覚障がいのある従業員とのコミュニケーションは、これまで筆談を主な手段としていました。短時間で内容を伝えようと要約すると、認識の相違によるミスが発生し、聴覚障がいのある従業員と健聴者との間で理解度に差が出てしまうことがあります。それを防ぐには正確に内容を伝えることが必要ですが、そうすると筆談にかなり時間がかかります。筆談担当者にかかる負担は大きく、聴覚障がい者、筆談担当者とも、意見があっても発言の機会を逸してしまうことも多く、気が付くと会議が先に進んでいることもありました。

ホンダR&D太陽でこうした困りごとを聞いたHRI-JPの技術者が、Hondaの持てる技術を活かして聴覚障がい者と健聴者のコミュニケーションを円滑にしようと立ち上がったのが、Honda CAシステム開発プロジェクトのスタートでした。

Hondaには「技術は人のためにある」という創業以来変わらない研究開発の信念があります。この信念は技術者に脈々と受け継がれており、 技術で課題を解決し、人の役に立ちたい、 という想いがHonda CAシステムプロジェクト立ち上げの原動力になりました。

プロジェクトには、ホンダ太陽、ホンダR&D太陽が加わり、3社での共同開発がスタート。 ホンダR&D太陽が現場の要望を聞いて、システムの仕様を作成し、それを基にHRI-JPでプロトタイプシステムを開発。プロトタイプをホンダ太陽、ホンダR&D太陽の現場で使用してもらい、ユーザーの意見を聞いて、改良を加えていきました。開発メンバーと現場が一体となった取り組みの結果、技術で人の役に立つ、という想いを具現化した形です。

こうした取り組みを経て、 Honda CAシステムはHonda内の様々なシーンや場所で活用され始めています。

<開発責任者:HRI-JPプリンシパルエンジニア 住田 直亮さんのコメント>

聴覚障がい者と健聴者のコミュニケーションに困りごとがあることを知り、技術者として何とか課題を解決したいという強い想いで開発に取り組んできました。 ホンダR&D太陽、ホンダ太陽と共に、開発とテストを繰り返してきました。現場で使えるシステムにするには、現場で試してみないと分からないことが多く、音声認識技術の性能向上には大きな苦労がありましたが、3社の共同開発だからこそ、ここまで出来たと思います。

Honda CAシステムが日常的に使われるようになり、ユーザーから「意見を出しやすくなり、モチベーションが上がった」「新しい役割も担うようになった」という声を聞き、胸が熱くなりました。役に立ってこそ技術、まさに「技術は人のためにある」だと実感しています。
Hondaには「人間尊重」という基本理念があります。「人間尊重」とは、自立した個性を尊重しあい、平等な関係に立ち、信頼し、持てる力を尽くすことで共に喜びをわかちあいたいという理念です。

人種・国籍・文化・性別・性自認・性的指向・経歴・教育・障がいの有無などの属性に関わらず、多様な人材が等しく機会を有し、異なる個性・持ち味を尊重し合い、存分に発揮することで企業としての総合力を高めることを目指しています。

このHondaの取り組みのように、企業においても格差をなくすよう仕組化することが、SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」達成へと繋がっていくことでしょう。
・Honda CAシステムの開発について
https://www.honda.co.jp/stories/003
・Honda Diversity & Inclusion / 人材の多様性
https://www.honda.co.jp/diversity/
・Honda Research Institute Japan
http://www.jp.honda-ri.com/
・Honda Stories:Honda CAシステムについて
https://www.honda.co.jp/stories/003