児童労働をテーマとした国際対話を呼びかけるサイドイベント
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SDGs目標「児童労働ゼロ」達成期限まであと半年 国連で日本のNGOが国際対話を呼びかけ

国連本部で開催された「国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF2025)」にて、日本のNGOである認定NPO法人ACEが、児童労働をテーマとした国際対話を呼びかけるサイドイベントを開催しました。

2025年は、SDGs目標8.7「児童労働の撤廃」の達成期限です。しかし、世界の児童労働者は依然として1億3,800万人に上り、達成は極めて困難な状況です。こうした中、国連本部で開催された「国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF2025)」にて、日本のNGOである認定NPO法人ACEが、児童労働をテーマとした国際対話を呼びかけるサイドイベントを7月16日(ニューヨーク現地時間)に開催しました。
HLPFは、SDGsの進捗を国連加盟国政府、国際機関、市民社会などが報告・議論する主要な国際会議であり、今年は日本政府も自発的国家レビュー(VNR)を発表しました。児童労働をなくす目標8.7は、SDGsの中でも貧困の連鎖を断ち切る鍵とされ、他の目標より5年早い2025年が達成期限とされています。本イベントでは、米国の児童労働経験者、児童労働に反対するグローバルマーチ、ガーナ政府、チョコレート企業のトニーズ・チョコロンリー、米国のNGO連盟であるChild Labour Coalition、ACEが登壇し、児童労働のない世界の実現に向けて取り組みを進めるという強い意志が共有されました。



タイトル :「2025年までに児童労働をなくすためのSDGs目標8.7に関する対話:児童労働 のない世界をどう実現するか?」
場所 :国連プラザ会議室(米国・ニューヨーク)
主催(共催):認定NPO法人ACE、児童労働に反対するグローバルマーチ、ガーナ政府、Child Labor Coalition
日時:2025年7月16日 13:15-14:30(現地時間)



1)クラウディア・フエンテス・フリオ大使(アライアンス8.7議長)

2024年の新しい世界推計によれば、児童労働に従事する子どもの数は2020年の1億6,000万人から、2024年には1億3,800万人へと減少しました。前進の道に戻ったとはいえ、2025年までに児童労働を撤廃するというSDGsの目標8.7は達成できない見込みです。アライアンス8.7は、強制労働、現代奴隷、人身取引、児童労働の撤廃をめざす、国連の枠組みにおいて特に独自性のある取り組みです。ステークホルダーをつなぎ、SDGs目標8.7の達成に向けた行動を加速させる取り組みを促進しています。私たちは力を合わせることで、児童労働への対応をさらに加速させ、すべての子どもが児童労働から解放される権利を守り続けることができます。

2)エスター・オフォリ・アジェマン氏 (ガーナ雇用労働省・児童労働ユニット長) 

ガーナでは2018年、2025年までに児童労働を撤廃する国家ビジョンを掲げ、子どもの権利保護と就学継続を重視した取り組みを開始しました。ILO、JICA、ACEと協働し、エリアベース・アプローチを用いた「児童労働フリーゾーン」制度を導入。この枠組みは、既存の地域システムを強化し、縦割りやプロジェクトごとの取り組みの壁を取っ払い、持続可能で統合的な行動を推進しています。2025年までに、ガーナがアフリカで初めて児童労働フリーゾーンを公式に宣言

3)岩附由香 氏(認定NPO法人ACE代表)

ACEは2023年、日本のSDGsアワードを受賞しました。「しあわせへのチョコレート」プロジェクトを通じて、カカオ農家の子どもの就学支援、収入向上、地域の能力強化によりカカオ産業における児童労働撤廃に取り組んでいます。ガーナ政府、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、国際協力機構(JICA)と連携し、児童労働フリーゾーンのガイドライン策定も支援しました。日本国内では、チョコレート企業と協働し、持続可能な調達の推進や消費者の啓発に取り組んでいます。

4)ダニエル・マガリャエス氏(トニーズ・チョコロンリー「オープンチェーン」 米国アカウントマネージャー)

トニーズ・オープンチェーンは、トレーサビリティや長期的な関係構築など5つの調達原則に基づいた責任あるカカオ調達モデルです。児童労働監視改善システム(CLMRS)は、取締りではなく、信頼に基づいた対話と地域の力を重視しています。当社では、ガーナとコートジボワールで5万人以上の子どもを対象に100%のCLMRSカバー率を達成。このモデルは、私たちが「ミッション・アライ(Mission Allies)」と呼ぶ企業らに対して、私たちの原則が実践されている同じ協同組合からカカオを調達できる仕組みを提供しています。 さらに、政府、市民社会、国際機関と連携し、より広範なカカオ産業全体のエコシステムの強化にも取り組んでいます。

5)リード・マキ氏(米国NGO連盟 Child Labor Coalition コーディネーター)

Child Labor Coalitionは、全米消費者連盟が主導し、特に農業分野の児童労働を禁止する法律の強化を訴えています。米国では12歳の子どもが有害な農作業に従事することがあり、タバコ農場ではニコチン中毒や農薬、猛暑による深刻な健康被害が報告されています。米国はILO第138号条約も未批准であり、最近では食肉加工や製造業などでも危険な児童労働が増加しています。米国労働省(ILAB)の国際助成金の打ち切りは、世界的な児童労働対策への大きな後退です。

6)ジャクリーン・アギラール氏(米国の児童労働経験者)

私は児童労働経験者であり、家族で初の大学卒業者です。11歳で経済的理由から米国の農業分野で働き始め、長時間労働、身体的な痛み、休憩なし、猛暑や有害化学物質への暴露といった過酷な環境を経験しました。父は肺がん、母は長年の農作業で障害を抱えました。私は家族を支えるために、学校に通いながらジャガイモの収穫作業もこなしていました。その中で、疲労や孤独、そして普通の子ども時代を失うという経験をしました。米国にも児童労働は依然として存在しています。どの子も「生きるため」と「夢を追うこと」の間で選択を迫られない社会を求めます。

7)ティム・ライアン氏(児童労働に反対するグローバルマーチ議長)

児童労働は、より広範な労働搾取の警告サインであり、家計や大人の労働条件とも密接に関係しています。児童労働をなくすためには、成人労働者が子どもたちの教育を守る権利を持つことが必要不可欠であるため、ILO第87号および第98号条約を順守することが重要です。市民社会や労働組合は児童労働問題に取り組む上でカギを握っていますが、彼らの政治的な活動の場が狭められており、その効果が脅かされています。児童労働フリーゾーンのような成功モデルは、国際機関や市民社会の強力な関与によって成り立っています。過去の成果に甘んじることなく、2030年までに児童労働をなくすため、さらなるコミットメント、資源、連携が急務です。


今年2025年が児童労働撤廃の目標年で、かつ目標8がハイレベル政治フォーラムの詳細レビューの目標の1つだったにも関わらず、児童労働をテーマにしたセッションが私たちのサイドイベント以外はなかったことが残念でした。目標8のレビューセッションでもパネルディスカッションでの言及はなく、各国コメントも25カ国以上あった中で児童労働に言及したのは4カ国だけでした。児童労働を世界のSDGs課題のひとつとして各国政府に再認識してもらうためにも、こうしたサイドイベントの開催も含めたグローバルレベルでの取り組みにこれからもACEはコミットしていく必要があると感じました。  また、今回日本のVNRの作成にあたってはSDGs市民社会ネットワークを中心に市民社会も多くのインプットや対話を行ってきました。国連でのVNRの発表は各国10分で、ビデオやプレゼンを政府代表が行う国も多い中、日本は宮路外務副大臣に加えNPOウィーログ代表理事の織田友理子さんなど市民社会からの登壇もあり、当事者も含めた多様な参加を示すことができた点を高く評価したいと思います。また質問への返答の中で、VNR担当をされた外務省担当課長から市民社会組織への謝辞があったことも、これまでの対話の積み重ねを感じられました。



同法人は、子どもの権利保護および、児童労働の撤廃と予防に取り組むNGOです。ガーナのカカオ生産地で危険な労働から子どもたちを守り、日本で児童労働の問題を伝える活動のほか、日本政府、ガーナ政府、日本のチョコレート企業への提言活動を行っています。インド人の人権活動家カイラシュ・サティヤルティ氏(2014年ノーベル平和賞を受賞)の呼びかけにより、1998年に世界103カ国で行われた「児童労働に反対するグローバルマーチ」を日本で実施するため、1997年に学生5人でACEを設立しました。2023年3月、第6回ジャパンSDGsアワードにおいて、国際NGOとして初のSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞。



詳細は、外務省のホームページにあるSDGs関連サイト【JAPAN SDGs Action Platform】に掲載の「持続可能な開発のための2030アジェンダ 仮訳(PDF)」にあります。

目標8:包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する

この目標では、産業の拡大だけではなく、労働者の権利についても言及されています。
目標8のターゲットは下記の表をご覧ください。
8.1 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
8.3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。
8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導 20 の下、持続可能な消費と生産に関する 10 カ年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。
8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。
8.6 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。
8.7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。
8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
8.10 国内の金融機関の能力を強化し、すべての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。
8.a 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。
8.b 2020年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。