南海トラフ地震を想定――今治市からしまなみ海道沿線の大島へ「ドローンによる医療物資輸送」を実証。国家戦略特区の支援でレジリエンスを強化【愛媛県今治市】
陸上輸送が途絶えても、来島海峡を越えて10分で命をつなぐ。近未来技術実証ワンストップセンターの伴走支援で実現
今治市(市長:徳永繁樹)が国家戦略特区の一環で設置している「近未来技術実証ワンストップセンター」による支援のもと、斎藤クリニック(今治市、院長:齋藤早智子)とイームズロボティクス株式会社(本社:福島県南相馬市、代表取締役:曽谷英司)と連携し、南海トラフ地震を想定したドローンによる医療品輸送の実証実験を実施しました。離陸地点は今治市内の砂場スポーツ公園(今治市砂場町1-662)、着陸地点はしまなみ海道沿線の大島・海宿千年松キャンプ場(今治市吉海町名駒25)。来島海峡上空の片道約4kmを約10分で結び、災害時における島しょ部への医療支援の即応性を検証しました。
今回の実証実験は、南海トラフ地震の発生により、しまなみ海道沿線の島しょ部と今治市内を結ぶ「来島海峡大橋」が通行できなくなる事態を想定し、医薬品や手術器具などの緊急物資を島しょ部へ迅速かつ安全に届ける新たな手段の確立を目的として行われました。
主催は斎藤クリニック、技術実施はイームズロボティクス株式会社。10月28日(火)14時30分に、今治市・砂場スポーツ公園から離陸し、大島・海宿千年松キャンプ場まで、来島海峡上空を片道約4km、高度100m・速度10m/sで飛行。輸送重量は約1kg、輸送時間は約10分でした。災害時の孤立を最小化し、医療を「空のルート」でつなぐための実践的な検証です。
日時:2025年10月28日(火)14:30飛行開始
区間:砂場スポーツ公園(今治市)→ 海宿千年松キャンプ場(大島)
飛行:来島海峡上空 片道約4km/高度100m/速度10m/s/所要約10分
輸送物資:注射器、輸血セット(ダミー)など合計約1kg
機体:イームズロボティクス UAV-E6106FLMP2(最大離陸重量14kg)
実証実験では、飛行中の機体の安定性、気象・風況に応じた運用判断、通信品質、離着陸の安全管理、医療品パッケージの固定と受け渡し手順などを総合的に検証しました。
当日は、(1)発進地点、(2)海上(船上)、(3)着陸地点にオペレーターを一人ずつ配置。ドローンは自動飛行しましたが、オペレーターによる目視での安全監視のもと、来島海峡上空を縦断しました。着陸地点でオペレーターを務めたのは、今回の実験の主催者であり、斎藤クリニックの医師でもある齋藤早智子院長。船上のオペレーターからドローンの操縦権を譲り受けると、着陸地点にドローンを誘導し、安全に着地。ドローンが運んできた配送用パッケージから注射器や輸血セットなどの医療品を取り出し、無事に輸送が完了したことを確認しました。
飛行時間は約10分で、陸上輸送よりも短時間で島しょ部へ物資が到達。大島以外にも多くの有人島がある今治市特有の地勢において、「空の輸送ルート」が有効であることがあらためて証明されました。
齋藤院長は、今回の実験について「しまなみ海道で陸地部とつながっている島しょ部は、大規模災害が発生した際に孤立してしまう危険性が高い。緊急度の高い傷病者へ迅速に医療を提供するためには、陸上輸送の代わりとなる輸送手段が必要。私自身がドローンの操縦ライセンスを取得しており、空の輸送ルートが利用可能なことを実証できた。今後も今治市と連携して、災害時の輸送手段や医療体制の確保に向けて検討を進め、有事に備えたい。」と語りました。
今治市は2015年に指定を受けた国家戦略特区の枠組みを活用し、2021年に「近未来技術実証ワンストップセンター」を設置。自動運転・ドローン・AI/IoT分野の実証実験に際して、実験フィールドの手配、関係機関との調整、地域への周知、事務手続きなどをワンストップで支援しています。さらに、実証実験に係る費用の補助制度(上限50万円、補助率1/2以内)を用意し、実証実験を積極的に誘致しています。
これまでにも、複数回のドローンの飛行実験のほか、IoTを活用した実証実験などサポートしてきた実績があり、実証フィールドとしての知見を蓄積。円滑な実証実験の実施につなげています。
外務省 SDGsサイト「JAPAN SDGs Action Platform」における「持続可能な開発のための2030アジェンダ 仮訳(PDF)」によると、以下のように記載があります。
11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
| 11.1 | 2030 年までに、すべての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。 |
|---|---|
| 11.2 | 2030 年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。 |
| 11.3 | 2030 年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、すべての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。 |
| 11.4 | 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。 |
| 11.5 | 2030 年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。 |
| 11.6 | 2030 年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。 |
| 11.7 | 2030 年までに、女性、子ども、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。 |
| 11.a | 各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する。 |
| 11.b | 2020 年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組 2015-2030 に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。 |
| 11.c | 財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用いた、持続可能かつ強靱(レジリエント)な建造物の整備を支援する。 |