Dual-S大麦
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気候変動への適応とおいしさを両立する「Dual-S大麦」の新たな研究成果を第40回ヨーロッパ醸造学会で発表

サッポロビール株式会社は独自に開発した「Dual-S大麦」が、化学肥料の使用量を抑えた低投入持続型農業においても、ビール醸造に適した麦芽品質を維持できる可能性を明らかにしました。

サッポロビール株式会社は、独自に開発した「Dual-S大麦」およびその親系統である「N68-411」が、化学肥料の使用量を抑えた低投入持続型農業(Low Input Sustainable Agriculture、以下LISA)においても、ビール醸造に適した麦芽品質を維持できる可能性を明らかにしたことを発表しました。同研究成果は、9月8日に開催された「第40回European Brewery Convention(ヨーロッパ醸造学会)」にて発表されました。



サッポロビール株式会社は、持続可能な社会の実現に向け、気候変動対策として「緩和(温室効果ガスの排出削減)」と「適応(気候変動による影響への備え)」の両輪による戦略を推進しています。
その中で「Dual-S大麦」は、ビールのおいしさにつながるLOXレスの品質特性を共通基盤とし、さまざまな気候変動適応特性をもつ品種を掛け合わせることで開発が進められている同社の次世代大麦の総称です。本研究では、その一例であるLOXレス大麦と「N68-411」を組み合わせたDual-S大麦を用いて評価が行われました。

近年、地球環境への負荷低減が世界的な課題となる中、化学肥料の過剰使用は土壌や河川への窒素流出、温室効果ガスの排出といった環境問題につながるとされています。このため、肥料の使用量を最小限に抑えた低投入持続型農業(LISA)や再生農業への転換が世界各地で進んでいます。
しかし、ビール大麦産地において施肥量を抑えた栽培を行うと、大麦種子に含まれる全窒素含量が低下しやすく、それに伴いビールの発酵に欠かせない麦芽中の可溶性窒素含量も低下する懸念があります。可溶性窒素含量はビール醸造において酵母の栄養源となる重要な成分であり、不足すると発酵不良のリスクが高まることが知られています。同社はこの課題を品種開発の視点から解決するため、「N68-411」および「Dual-S大麦」を活用した研究を進めてきました。

今回の研究により、「N68-411」の特性を受け継ぐ「Dual-S大麦」は麦芽の製造工程で効率的に可溶性窒素が生成されるため、LISA条件下においても麦芽中の可溶性窒素含量を維持できることが確認されました。この結果から、環境負荷低減に貢献する栽培方法であってもビール醸造に必要な成分を確保し、発酵不良のリスクを低減できる可能性が示唆されています。

さらにLISAによる栽培では、慣行栽培と比較して大麦1tあたりの温室効果ガス排出量を約100kg削減できると試算されています。化学肥料に含まれる窒素由来の排出は世界全体の温室効果ガス排出量の2.1%を占めるとされていますが、本研究成果はビール原料の品質維持と環境負荷低減の両立を可能にするものであり、同社が掲げるFLAG(Forest, Land and Agriculture)Scope1・3温室効果ガス排出量削減目標の達成に向けた取り組みとして位置付けられています。気候変動への「適応」を目指して開発された「Dual-S大麦」が、環境負荷を低減する「緩和」にも貢献できる可能性を示した点において、大きな成果となっています。



■今後の課題と展望
一方で今後の課題として、LISAや再生農業では収量が低下するリスクが挙げられています。同社は今後、このような条件下においても収量が低下しない大麦の研究開発を進め、「Dual-S大麦」と交配することにより、ビール醸造に求められる品質や環境適応性、高収量性を兼ね備えた品種の育成を目指すとしています。

国内でビール大麦の育種に取り組む公的機関が限られる中、同社は原料開発段階からの研究開発を通じて、高品質なビール原料の安定確保と環境課題の解決に取り組み、持続可能なビール産業の発展に貢献する方針です。


■研究担当者のコメント
同社 原料開発研究所 上級研究員 木原誠氏は「環境に優しい低投入持続型農業への適応は、未来のビール業界の原料調達のための大切な取り組みでもあります。世界のビール産業のサステナビリティのためにも、これからも『Dual-S大麦』の可能性を追求していきます」と述べています。


【注釈・用語解説】
・(注1) N68-411:同社が独自に開発した大麦変異系統。高い溶解性と穂発芽耐性を特長とする。
・(注2) 緩和と適応の両輪による戦略:同社企業サイト内の「環境経営」等で掲げる環境戦略。
・(注3) LOXレス:大麦育種を通じてビールの旨さを長持ちさせる品質特性のこと。
・(注4) Dual-S大麦:ビールのおいしさにつながる品質特性と気候変動耐性を兼ね備えた同社独自開発の次世代大麦の総称。「Stable」と「Sustainable」の2つのSを名称の由来とし、2025年に商標登録。
・(注5) 再生農業:農地の土壌に着目し、その生態系を再生させることで土壌の健全性を高め、農作物の生産を持続可能にする農法。
・(注6) 全窒素含量:大麦の種子に含まれる窒素の総量。
・(注7) 可溶性窒素含量:麦芽を糖化したときに麦汁中へ溶け出すアミノ酸などの窒素成分の量。酵母の栄養源となり、ビール発酵に重要な役割を果たす。
・(注8) 温室効果ガス排出量の割合:Menegat et al. (2022) Nature portfolio, 12 の論文データに基づく。
・(注9) FLAG Scope1・3:温室効果ガス排出量削減目標における森林・土地利用・農業(FLAG)関連の削減指標。



SDGs目標13は「気候変動に具体的な対策を」とありますが、そもそも具体的にはどういったことなのでしょうか?

国際連合広報センターサイト「JAPAN SDGs Action Platform」における「持続可能な開発のための2030アジェンダ 仮訳(PDF)」によると、以下のように記載があります。

目標 13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる*

13.1 すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。
13.2 気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。
13.3 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。
13.a 重要な緩和行動の実施とその実施における透明性確保に関する開発途上国のニーズに対応するため、2020年までにあらゆる供給源から年間1,000億ドルを共同で動員するという、UNFCCCの先進締約国によるコミットメントを実施するとともに、可能な限り速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる。
13.b 後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において、女性や⻘年、地方及び社会的に疎外されたコミュニティに焦点を当てることを含め、気候変動関連の効果的な計画策定と管理のための能力を向上するメカニズムを推進する。