SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」~世界の教育環境を変えるためにできることは?~
今回の記事では、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」(Goal 4: Quality Education)について、世界の現状と目標達成に向けた取り組みを紹介します。(2020年9月29日更新)
執筆者:太田 直希
教育は、貧困状況から抜け出し自立するために、特に効果的な手段の一つで、SDGsの中でも必要不可欠なものと考えられています。
目標の中でも、無償かつ公正で質の高い初等教育、中等教育を受けられること、また男性や女性などの区別なく、ジェンダー格差を無くしていくことなどが掲げられています。
なぜ「質の高い教育をみんなに」という目標が掲げられたのか?
を一緒に考えていきましょう。
SDGs目標4は「質の高い教育をみんなに」とありますが、そもそも具体的にはどういったことなのでしょうか?
外務省 SDGsサイト「JAPAN SDGs Action Platform」における「持続可能な開発のための2030アジェンダ 仮訳(PDF)」によると、以下のように記載があります。
目標 4 . すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
4.1 2030 年までに、すべての女児及び男児が、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。 4.2 2030 年までに、すべての女児及び男児が、質の高い乳幼児の発達支援、ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。 4.3 2030 年までに、すべての女性及び男性が、手頃な価格で質の高い技術教育、職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。 4.4 2030 年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事 及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。 4.5 2030 年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。 4.6 2030 年までに、すべての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする。 4.7 2030 年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。 4.a 子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。 4.b 2020 年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、ならびにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど、先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる。 4.c 2030 年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員養成のための国際協力などを通じて、資格を持つ教員の数を大幅に増加させる。
世界の教育の現状と課題を見ていきましょう。
日本では、小学校から中学校までの9年間が「義務教育」として国の制度で導入されており、当たり前のようにすべての子供たちが教育を受ける権利を持っています。
日本で育った私は、当たり前のように大学まで進学させて貰いましたし、時には嫌々ながら通学していた時期もありました。
一方で世界をみてみると、国際連合広報センターのSDGs報告2019では
・最低限の読み書きと算術の習得ができていない子供と思春期の若者が6億7100万人
・読み書きができない成人が7億5000万人(そのうち3分の2は女性)
と報告されています。
世界人口が約77億人ですから、おおよそ「5人に1人」は、必要最低限の読み書きの教育さえも受けることができていないのが現状と言えます。
地域別での格差もあり、初等教育の修了率でみると、東アジアやヨーロッパ、中南米諸国の先進国では90%を超えているのに対して、南アジア、サブサハラ・アフリカ諸国、中近東・北アフリカ諸国などの国では中途退学率がいまだに高いのが現状です。
では、当たり前のように教育を受けることができる日本と何が違うのでしょうか?
GEFI(Grobal Education First Initiative)では、こう述べられています。
・1億7,100万人が貧困から抜け出せる
・1,200万人の子どもたちが発育阻害から抜け出せる
・子どもの死亡率は49%減少する
・出産における死亡率は66%減少する
・児童婚の64%が減少し、早すぎる妊娠の59%が減少する
・収入が10%増加に関連する
このようにSDGs目標4「質の高い教育をみんなに」ができれば、世界は大きく変わるでしょう。
【岡山大学×SDGs】 ESDの教師教育推進に向けた国際研究拠点の構築
<ESDの教師教育>
「持続可能な開発のための教育(ESD)」を実践する教育者・指導者の育成に注目した活動で、岡山大学はアジアで唯一のESDのユネスコチェアならびに国連大学認定の岡山RCE(ESDの地域拠点)の主要機関として、ESDの教師教育を積極的に推進しています。
特にアジアを中心として、中国、韓国、モンゴル、インドネシア、ラオス、ミャンマーなどの教育の拠点機関と連携しながら教師教育のプログラムの開発を進めています。
この取り組みで期待される成果として、下記を挙げています。
(1)ESD教師教育の中核的な研究交流拠点の確立
(2)ESD教師教育の学術ネットワークの構築
(3)次世代のESD教師教育の研究者の育成の実現
これらの成果によって、将来的にアジアにおけるESDの教師教育推進の基盤が形成され、広く普及していくことが期待されています。
「みんなの学校プロジェクト」
「みんなの学校プロジェクト」は、JICAが2004年から推進してきた、教育行政、学校、地域コミュニティが協働し、子どもたちの学びの場をつくる教育開発プロジェクトです。
サハラ以南アフリカでは、10歳以上の約6割の子どもたちが、読み書きや計算の基礎が身についていない状態でした。
この教育環境を改善するため、1990年代後半から教育行政改革に取り組んできました。まずは学校運営の権限を、政府から教員や保護者、地域住民で構成される「学校運営委員会」に移し、学校運営委員会を中心とした教育開発の取組みに着手しました。
しかしこの制度改革だけでは、地域住民にとって学校は心理的に遠い存在のままで、住民や教員が積極的に協働する仕組みづくりとして、「みんなの学校プロジェクト」がスタートしました。
活発な活動を促すために、まず委員は匿名選挙で選出し、運営の透明性のため学校、保護者、委員会の間での情報共有、活動計画や実施も自ら取り組むようなプロセスに変えることで信頼関係を築くことができました。チームでの活動がより加速し、地域への教育を根付かせることに成功し、入学率が向上しました。
子どもたちの将来をより良くしたいという地域住民、教員、保護者の想いが教育環境を大きく変えた一例と言えます。
SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」をテーマとして書いている中で、日本で受けている教育は世界では当たり前ではなく、恵まれた環境にあるのだと改めて気付かされました。
それでは、私たちにできることは何でしょうか?
学校を建てるための募金活動、貧困や飢餓に苦しんでいる地域への支援、戦争で苦しんでいる地域への支援など、できることはたくさんあると思います。
ただ今回のみんなの学校プロジェクトのように、周りを巻き込んでチームで活動することで大きな成果を得られることもあります。
まずは教育の現状を知って、それを周りの家族や地域の人と共有しながら、何ができるかを考えていくことで、SDGsを実現するためのもっと大きな活動の一歩になるかもしれません。
・国際連合広報センター
・岡山大学×SDGs 取組事例
・独立行政法人国際協力機構 アフリカ4万校に広がる「みんなの学校プロジェクト」
・Grobal Education First Initiative