パートナーシップ実現の方法論「コレクティブインパクト」
PARTNERSHIP

パートナーシップ実現の方法論「コレクティブインパクト」

SDGsの目標達成には、世界中の政府や自治体などの公的機関、企業や団体、個人といったありとあらゆるステークホルダー全員が、各々のミッションとその実現に責任を果たし取り組むことが必要不可欠です。

執筆者:諏訪 剛史

今回の記事では、SDGs17番目の目標「パートナーシップ」について取り上げます。

SDGsの目標達成において、その他16の目標全てにかかる「実施手段の強化」と「パートナーシップの活性化」を目標に掲げた、非常に重要かつ課題の多い目標項目です。

SDGsの目標達成には、世界中の政府や自治体などの公的機関、企業や団体、個人といったありとあらゆるステークホルダー全員が、各々のミッションとその実現に責任を果たし取り組むことが必要不可欠です。しかし、各々が自身のミッションと実現責任を果たすだけでは、全ての目標を達成するのは困難であることも明白でしょう。

「誰一人取り残さない」というSDGsの根本理念を実現するためには、他の国や地域での課題や問題を他人ごとではなく自分ごととして真摯に向き合い、解決していく必要があります。

そこで、様々な方法論が考え出されて試行錯誤がされていますが、近年広く注目されて活用されている方法論の一つに、「コレクティブインパクト」というものがあります。
今回は、この「コレクティブインパクト」の概要と実例を踏まえて、私達ができることについてご紹介していきます。

この方法論自体は、2011年にStanford Social Innovation Reviewで発表した論文“Collective Impact”(John Kania、Mark Kramaer著)で提唱されたもので、協業する各組織・団体個別の推進では解決が難しい社会的課題に対し、コラボレーションの枠を超えて共通のアジェンダに基づいてコミットするというものです。

具体的には、通常の協業や連携とは異なり、学術的な研究により確立された5つの特徴があります。

1. 共通のアジェンダ
全てのプレーヤーが、共通のビジョン・課題認識を持ち、互いに合意形成されたプロセスを推進することで目標を達成する。

2. 評価・測定手法の共有
全てのプレーヤー間で、成果の評価・測定手法が共有されていて、公平・公正な評価を可能とする。評価を通じて学習・改善する。

3.互いを強化・補完する活動
それぞれの専門性や特性を活かし、各参加者が互いに強化・補完できる活動を規定し、推進する。

4.継続的なコミュニケーション
共通の目標達成に向け、関係性強化およびモチベーション向上のために全てのプレーヤー同士が継続的なコミュニケーションを取る。

5. 活動支援の専門組織の組成
上記1〜4における戦略・活動立案、評価・測定手法確立、コミュニケーション創出などの各種活動をチェック・支援する独立した組織を組成する。

この5つの項目に沿って、全てのプレーヤーがパートナーシップを持って推進していきます。

1から新しいプログラムや組織を組むのではなく、既存のプログラムや組織を元に構築することもありますが、全てのセクターのリーダーが共通のビジョン定義、活動内容と評価手法確立、支援組織の組成といった様々なプロセスが必要となるため、半年〜最長2年ほどの年月を想定しておく必要もあります。

「コレクティブインパクト」は、提唱されてからまだ10年弱の新たな方法論であり、活用事例が増えるのはこれからだと思いますが、日本の活用事例としては、渋谷区で推進されている「スタディークーポンイニシアティブ」がありますので、こちらについてもご紹介します。

「みんなの力で教育格差をなくそう」というビジョン実現のため、NPO主導で学習塾、家庭教師、通信教育等の教育機関や、教育支援を行うNPO、渋谷区等の自治体がパートナーシップを組んで推進するプログラムです。世帯所得の格差により、塾や家庭教師などに満足に通えず進路を諦めたり、変えざるを得ない子どもたちを救うための活動を推進しています。

クラウドファンディングで寄付金を集め、それを教育機関に通うためのクーポンに変換したり、支援を必要とする世帯の子どもたちに配布したりすることで、子どもたちは必要な教育を受けることができるようになります。

クラウドファンディングにより、寄付する側のハードルも低く、特定の個人に紐づくクーポンのため、悪用や転用のリスクがありません。それどころか、教育機会の提供による学力向上や教育事業者の受講者数増加、提携自治体の活性化など、全てのプレーヤーの利を実現しています。

運営・推進には、クラウドファンディングやクーポン管理などのシステム開発・運用、各教育機関のデータ・情報の連携を支える各種技術がバックボーンにあると思いますので、技術による社会課題解決の成功例といえます。

現在は渋谷区との連携ですが、これを全国に広げていく構想があるようで、さらに多くのプレーヤーでのコレクティブインパクト推進の代表例になっていくことも期待できます。

今回ご紹介した事例は、教育格差是正に向け、NPOが主導となり、クラウドファンディングなどの既存技術を活用しながら「コレクティブインパクト」の方法論を適用した成功例といえます。

パートナーシップの実現に向けては、多くのプレーヤーと長い年月をかけて試行錯誤で練り上げていくことが必要だと思います。

ですが、既に社会課題の解決に向けて動き出しているプログラムや活動に対し、寄付という形で参画することや、自分が持っている人脈や興味のあるコミュニティを辿って、プレーヤーとして実現の一端を担うことは私たちにも可能なのではないでしょうか。
ご自身が所属する企業や団体に、プログラム参画や協業、資金提供などの提案をしてみてもいいかもしれません。

道のりが困難で壁も多いパートナーシップという目標だからこそ、それぞれが取り組める小さな活動から参画し、自身がプレーヤーとなって本気で考えていくことが、目標達成につながっていくと思います。

・IDCJ SDGsハンドブック
・SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」
・内閣府 マルチステークホルダーの考え方
・スタディークーポンイニシアティブ