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SDGs目標8「働きがいも経済成長も」~労働環境を取り巻く現状と改善のための取り組みとは?~
今回の記事では、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」(Goal 8: Decent work and economic growth)について、背景や目標達成に向けた取り組みを紹介します。
執筆者:佐藤 加奈
SDGs目標8は「働きがいも経済成長も」です。
具体的にはどのような内容なのでしょうか?
具体的にはどのような内容なのでしょうか?
詳細は、外務省のホームページにあるSDGs関連サイト【JAPAN SDGs Action Platform】に掲載の「持続可能な開発のための2030アジェンダ 仮訳(PDF)」にあります。
目標8:包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
この目標では、産業の拡大だけではなく、労働者の権利についても言及されています。
目標8のターゲットは下記の表をご覧ください。
8.1 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。 8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。 8.3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。 8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導 20 の下、持続可能な消費と生産に関する 10 カ年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。 8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。 8.6 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。 8.7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。 8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。 8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。 8.10 国内の金融機関の能力を強化し、すべての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。 8.a 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。 8.b 2020年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。
では、次に目標8が設定された背景について見ていきましょう。
世界の失業率の高さや労働環境の過酷さなど、世界中で労働に関する課題が多く残されていることにより、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」ができました。
2017年の世界の失業率は5.6%で、2000年の6.4%から低下しています。
しかし、新型コロナウイルス感染症による影響で失業率は上昇(または悪化)すると予想されます。
SDGsの目標が設定された当初は、2016 年から 2030 年にかけ、全世界で新たに労働市場に参入する 4億 7,000 万人に雇用を提供する必要があると考えられていました。しかし、労働者全員に雇用を提供することは難しい状況となっているかもしれません。
雇用が提供されている人でも、賃金に関してはどうでしょうか?
世界人口の半数は1日あたり約2ドル程度の金額で生活しており、その他にも、危険な仕事や男女不平等、発言権の欠如、病気・障害・高齢に対する不十分な保護、児童労働などディーセント・ワーク(人間らしい仕事ができる環境や労働条件)の欠如ともいえる現状があります。
つまり、仕事があっても貧困から逃れられない生活をしているという状況が生じているのです。
失業率の上昇(または悪化)を防ぎ、労働環境改善のためにはディーセント・ワークの取り組みを進めていく必要があるでしょう。
2017年の世界の失業率は5.6%で、2000年の6.4%から低下しています。
しかし、新型コロナウイルス感染症による影響で失業率は上昇(または悪化)すると予想されます。
SDGsの目標が設定された当初は、2016 年から 2030 年にかけ、全世界で新たに労働市場に参入する 4億 7,000 万人に雇用を提供する必要があると考えられていました。しかし、労働者全員に雇用を提供することは難しい状況となっているかもしれません。
雇用が提供されている人でも、賃金に関してはどうでしょうか?
世界人口の半数は1日あたり約2ドル程度の金額で生活しており、その他にも、危険な仕事や男女不平等、発言権の欠如、病気・障害・高齢に対する不十分な保護、児童労働などディーセント・ワーク(人間らしい仕事ができる環境や労働条件)の欠如ともいえる現状があります。
失業率の上昇(または悪化)を防ぎ、労働環境改善のためにはディーセント・ワークの取り組みを進めていく必要があるでしょう。
ディーセント・ワークとは「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されます。
この言葉は1999年の第87回ILO(International Labour Organization:国際労働機関)総会に提出された事務局長報告において初めて用いられ、ILOの活動の主目標と位置付けられました。
働きがいがあり、生活するのに十分な収入がある仕事ということで、仕事があるということが大前提ですが、人間としての権利や自由、平等などが保障されていることが重要となります。
1999年の第87回ILO総会事務局長報告と2008年の第97回総会において採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」の中で、以下のようにディーセント・ワーク実現のための4つの戦略目標が掲げられています。
1.仕事の創出 - 必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事を作り出すことを支援。
2.社会的保護の拡充 - 安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備。社会保障の充実。
3.社会対話の推進 - 職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政・労・使の話し合いの促進。
4.仕事における権利の保障 - 不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障、尊重。
これらディーセント・ワーク実現の目標を達成するための動きは、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の達成にも大きく関連があることがわかるでしょう。
それでは、世界では目標達成のためにどのような活動をしているのでしょうか?
世界と日本の事例を3つご紹介します。
①ILO/国際金融公社(IFC)プログラムであるベターワーク(より良い仕事)
2009年に始動したILO/国際金融公社(IFC)プログラムであるベターワーク(より良い仕事)として、世界的な衣料品ブランドと工場との関与のもと、300万人を超える工場労働者の労働条件改善を実現しています。
具体的な成果例として、ヨルダンでは工場の労働安全・衛生条件の改善、適正な最低賃金・手当の支払いの改善があります。また、移民労働者の代表が業界全体の団体協会に参加することもできるようになりました。
ベトナムでは、ベターワークに参加した工場の65%が総売り上げの増加、62%で生産力が拡大、60%で雇用者数が増加しています。
世界と日本の事例を3つご紹介します。
①ILO/国際金融公社(IFC)プログラムであるベターワーク(より良い仕事)
2009年に始動したILO/国際金融公社(IFC)プログラムであるベターワーク(より良い仕事)として、世界的な衣料品ブランドと工場との関与のもと、300万人を超える工場労働者の労働条件改善を実現しています。
具体的な成果例として、ヨルダンでは工場の労働安全・衛生条件の改善、適正な最低賃金・手当の支払いの改善があります。また、移民労働者の代表が業界全体の団体協会に参加することもできるようになりました。
ベトナムでは、ベターワークに参加した工場の65%が総売り上げの増加、62%で生産力が拡大、60%で雇用者数が増加しています。
②NEC(日本電気株式会社) デジタルホスピタルへの取り組み
少子高齢化が急速に進んでいる日本では、高齢化に伴う患者の増加、多様なニーズの変化により、限られたスタッフの数と財源で対応していく必要があります。また、地域によっても医療格差が生じている状況で、AIやIoTなどのテクノロジーを活用する動きが出てきています。
NECは、医療法人社団KNI(Kitahara Neurosurgical Institute)と協力して、2017年度から「デジタルホスピタル構想」として、AIやIoTなどのテクノロジーを活用して医療現場の業務効率化と医療の質の向上実現に向けて開発を進めています。
テクノロジーの活用により医療スタッフの業務負担が軽減され、その分患者と向き合うことができるようになるため、満足度や質の高い医療を患者やその家族のニーズに合わせて提供することができるようになるのです。
具体的には、AIによりカルテ情報とバイタルセンサーの解析を行うことにより、入院患者の不穏行動(急性の錯乱状態や不安、混乱など)の予兆検知や誤嚥(ごえん)性肺炎のハイリスク患者の抽出を行う取り組みが進められています。
これにより、患者の入院長期化の回避や、患者・医療スタッフの身体的・精神的負担軽減が期待され、医療現場での労働環境改善につながると考えられます。
少子高齢化が急速に進んでいる日本では、高齢化に伴う患者の増加、多様なニーズの変化により、限られたスタッフの数と財源で対応していく必要があります。また、地域によっても医療格差が生じている状況で、AIやIoTなどのテクノロジーを活用する動きが出てきています。
NECは、医療法人社団KNI(Kitahara Neurosurgical Institute)と協力して、2017年度から「デジタルホスピタル構想」として、AIやIoTなどのテクノロジーを活用して医療現場の業務効率化と医療の質の向上実現に向けて開発を進めています。
テクノロジーの活用により医療スタッフの業務負担が軽減され、その分患者と向き合うことができるようになるため、満足度や質の高い医療を患者やその家族のニーズに合わせて提供することができるようになるのです。
具体的には、AIによりカルテ情報とバイタルセンサーの解析を行うことにより、入院患者の不穏行動(急性の錯乱状態や不安、混乱など)の予兆検知や誤嚥(ごえん)性肺炎のハイリスク患者の抽出を行う取り組みが進められています。
これにより、患者の入院長期化の回避や、患者・医療スタッフの身体的・精神的負担軽減が期待され、医療現場での労働環境改善につながると考えられます。
③リモートワークの推進
新型コロナウイルス感染症の拡大により国内では急速にリモートワークが進められるようになりました。
総務省の通信利用動向調査によると、2017年から2020年にかけてリモートワークの普及率は13.9%から20.2%へと上昇傾向にあり、リモートワークの導入を検討している企業も4.3%から9.4%へ上昇しています。
企業のリモートワークの主な導入理由としては、業務の効率性(生産性)の向上や、勤務者のワークライフバランスの向上、勤務者の移動時間の短縮・混雑回避でした。
また、リモートワークの導入について「非常に効果があった」あるいは「ある程度効果があった」と回答した企業は87.2%と、約9割の企業がリモートワーク導入の効果があったと回答していることから、国内の企業ではリモートワークの推進により業務の効率化が図られ、労働者のワークライフバランス向上にも繋がっていることがわかります。
さらに、リモートワーク推進により、離れた場所でも仕事ができるようになるため、世界中から優秀な人材を採用することができるようになります。
働く強い意志や能力が十分にあっても、移動にかかるコストの問題で十分な仕事を得られなかった人にとっては大きなチャンスが訪れていると言えるかもしれません。
新型コロナウイルス感染症の拡大により国内では急速にリモートワークが進められるようになりました。
総務省の通信利用動向調査によると、2017年から2020年にかけてリモートワークの普及率は13.9%から20.2%へと上昇傾向にあり、リモートワークの導入を検討している企業も4.3%から9.4%へ上昇しています。
企業のリモートワークの主な導入理由としては、業務の効率性(生産性)の向上や、勤務者のワークライフバランスの向上、勤務者の移動時間の短縮・混雑回避でした。
また、リモートワークの導入について「非常に効果があった」あるいは「ある程度効果があった」と回答した企業は87.2%と、約9割の企業がリモートワーク導入の効果があったと回答していることから、国内の企業ではリモートワークの推進により業務の効率化が図られ、労働者のワークライフバランス向上にも繋がっていることがわかります。
働く強い意志や能力が十分にあっても、移動にかかるコストの問題で十分な仕事を得られなかった人にとっては大きなチャンスが訪れていると言えるかもしれません。
新型コロナウイルス感染の影響により、多くの企業がリモートワークを導入することで生産性を維持、または向上させようとしています。
もちろん、飲食や医療など、すべての仕事を完全にリモート化するのは難しいかもしれません。それでもAIやIoTなどのテクノロジーをうまく活用することで、勤務者の精神的・身体的負担を軽減することはできる可能性があります。
また、ベターワークのように周囲の様々な企業、団体と協力することで労働環境を大きく改善することもできるでしょう。
それでは、私たちができることは何でしょうか?
まずは、世界全体でSDGs達成のための取り組みを進めているという事実やディーセント・ワークを推進しようと動いているという事実を知ることです。
さらに、自分たちの労働環境はどうか、また、勤務者個人として働きがいのある仕事はどんな仕事か、を考えることがSDGs目標8「働きがいも経済成長も」達成のための大きな一歩となるかもしれません。
もちろん、飲食や医療など、すべての仕事を完全にリモート化するのは難しいかもしれません。それでもAIやIoTなどのテクノロジーをうまく活用することで、勤務者の精神的・身体的負担を軽減することはできる可能性があります。
また、ベターワークのように周囲の様々な企業、団体と協力することで労働環境を大きく改善することもできるでしょう。
それでは、私たちができることは何でしょうか?
まずは、世界全体でSDGs達成のための取り組みを進めているという事実やディーセント・ワークを推進しようと動いているという事実を知ることです。
さらに、自分たちの労働環境はどうか、また、勤務者個人として働きがいのある仕事はどんな仕事か、を考えることがSDGs目標8「働きがいも経済成長も」達成のための大きな一歩となるかもしれません。
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