日本各地の海の民話アニメ42作品を上映し人気声優他の多彩なゲストと民話×地域づくりの可能性を熱く語り合った『海ノ民話アニメーション上映会 2022』を開催
日本各地の海の民話をアニメにして子どもたちに伝え語り継ぐ「海ノ民話のまちプロジェクト」。2018年より一般社団法人日本昔ばなし協会が推進し、アニメ化を機に各地で民話を活かした地域づくり等が動いています。
イベントは二部構成で実施され、第一部は、「海ノ民話のまちプロジェクト」の軌跡、15本のアニメ上映とゲストトークを展開。第二部では2018年から2022年までに制作した日本各地の『海ノ民話』アニメ27作品を一挙上映しました。
まず登場したのは、日本財団の海野光行 常務理事と女優・作家・歌手として活躍されている中江有里さんです。
このプロジェクト実施の理由や民話をアニメーションにした背景などを紹介しました。
また、日本財団 笹川陽平会長からは「海の民話には『海への感謝や教訓、警鐘』が含まれている。例えば魚や貝などの海の資源を取り過ぎないように、感謝しながら海と共に生きていく心構えがあった昔の人たちの海への想いが、海の民話を通して語り継がれてきた。海ノ民話のまちプロジェクトでは、海の民話をアニメーション化して、未来の子どもたちへ『海への想い』を引き継いで行きたいと思っている。本日の上映会ではゲストによる民話アニメについて面白い話があります。どうぞ皆さんで楽しんでください。」とビデオメッセージがありました。
「多くの民話には感謝や教訓、警鐘や心がまえなど、先人たちが込めた『想い』が詰まっています」と語る海野常務。民衆のなかから生まれ、語り継がれてきた民話が、少子高齢化や市町村合併などの影響により消失の危機に。「海にまつわる民話を記録保存し『海と人とのつながり』や『地域の誇り』、海心を子どもたちに伝え、継承していく必要があると考えプロジェクトをスタートさせました。
アニメという手法を選んだのは世代を超えて、とりわけ子どもたちに伝えていくため。柔らかいタッチと親しみやすい画、語りかけるような優しさのある声の作品にしたいと切望していたところ、「まんが日本昔ばなし」のチームにいた皆さんに出会うことができ、アニメ制作が可能になりました。」と、海野常務はその背景を語りました。
子どもの頃から「まんが日本昔ばなし」をテレビでよく観ていたという中江さん。「今思えば、テレビで昔ばなしを見ていたことで、昔があって今があることを子どもながらになんとなく知ることができていた。昔ばなしに触れることはとても貴重なのだと思います。」そう語る中江さんは、『海ノ民話』をYouTubeで観ることができることの魅力や、1話が子どもでも飽きない短さであることにも着目していました。
続いてステージに登壇したのは一般社団法人日本昔ばなし協会 代表理事で『海ノ民話のまちプロジェクト』の監督を務める沼田心之介と今治市産業部交流振興局文化振興課課長の波頭健さん。
沼田監督は、「海ノ民話のアニメ作品は、実際に現地を訪ねて地域ごとに実行委員会を作り、地元のさまざまな方々と意見交換をして丁寧に作っている。船で民話の現地に赴くこともあり、地元の人が大切にしてきたことや文化を取り入れて作品を作っています。とりわけ海の民話が教えてくれることを分かりやすく表現したいと思い、試行錯誤しました。」と沼田監督。
舞台となった地域や民話が教えてくれることをわかりやすく1分にまとめ、作品の最後にギュッと学びが盛り込まれています。
続いて『海ノ民話』を活用した二つの事例が紹介されました。
一つは、創業1902年の老舗・神奈川県藤沢市の中村屋羊羹店さんの事例です。アニメで可愛らしいキャラクターになった弁天様を商品のパッケージに展開して販売し、題材となった江の島の『海ノ民話・五頭龍と弁天様』を店頭の小型モニターで上映しています。製造が間に合わないほどの人気商品になっています。
続いて紹介されたのは愛媛県今治市での事例です。市内の全小学4年生を対象に『海ノ民話』の上映授業を実施して、子どもたちに学びの場を提供。さらに全小学校5年生を対象に、専門家による『海ノ民話』の出前授業を展開しています。
その効果について今治市産業部交流振興局文化振興課課長の波頭健さんは、「今治市で伝承されてきた『海ノ民話・クジラのお礼まいり』から得られる学びが一層深まり、地域への愛郷心を高まるきっかけになったと教育現場から評価の声が届いています」と紹介。引き続き教育現場で『海ノ民話』を活用し、海から得る教訓や学びを子どもたちに伝えていくとコメント。
「民話もその土地特有の宝ではないかと改めて思いました。『海ノ民話』をアニメにすることで、地元の方がその宝を改めて自覚する、まちを誇りに思うきっかけになるようにも思います。『海ノ民話』をきっかけにコラボ商品が生まれ、地域の活性化につながるという良い流れに感心しました」と中江さん。
テーマ1「語り継がれる民話のチカラ」
ここからは、現在までに制作した42作品のなかから15作品を3つのテーマに分けて上映。テーマに関連したゲストトークが繰り広げられました。
1つ目のテーマは「語り継がれる民話のチカラ」。学習要素のある5作品が上映され、お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーション研究所特任講師の里浩彰さん、桃太郎を研究し執筆した作品で文部科学大臣賞を2度も受賞した桃太郎博士の中学3年生、倉持よつばさんが登壇。
里さんは、「海ノ民話」を取り入れた授業について、自分が住んでいる地域が海とどう関わってきたのかをより臨場感を持って理解することができる、として次のように評価しました。
「『海ノ民話』アニメ1作品の中に多くの学びがあり、他の地域の民話と比較すると、それぞれの地域の特徴が見えてきて、新たな気づきもあります。1作品が5分というのも良いですね。それぞれの作品に勉強として抽出しやすい要素があり、授業をする立場として活用できると思っています。」
日本各地にある桃太郎の昔ばなしを研究している倉持さん。自身の学校での体験から「民話をアニメにすると学びが頭に入りやすく、自分から学びたいと思うようになります。私自身は、歴史が好きなので、民話から歴史を推測したり、その土地を知るきっかけになったり、古典を学ぶきっかけになるといいなと思っています」と語りました。
テーマ2「地域を豊かにする海文化」を建築と海女業の視点から語る
2つ目のテーマは、地域の成り立ちや地名に由来のある5作品。登壇したのは、大手前大学建築&芸術学部専任講師の下田元毅さん。三重県鳥羽海女&水産庁「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」メンバー、小寺めぐみさんです。
下田さんは、愛媛県の佐田岬半島にある神社や町並みに触れながら「海際の地域には、その土地の風土に呼応した地域固有の町並みをみることができます。地域に根ざした町並みは地域固有の可視化されたアイデンティティと言えるのではないでしょうか」と話しました。
海女漁と水産物の商品化など、地域資源を守りながら活性化に尽力されている小寺さんは、海女という生き方と海への向き合い方を紹介。
さらに下田さんと小寺さんは、漁村文化を語り継ぐことの重要性についても教えてくれました。
「民話をはじめとする漁村文化を継承していくことは、子どもたちが自分のまちに対して肯定的なイメージを醸成する重要なエレメント、自分のまちを好きになる、誇りに思うきっかけになります。外部の目を通して地域の見えないものを見える形として残していくことが、これからの時代の伝承の手法としてとても大切だと思っています。」と下田さん。
小寺さんは「漁村文化の中心にあるのは自然の恵み、地域のつながりの中でお願いの祈りから始まり、お礼の祈りに結ばれる営みと考えています。昔は誰かから伝わってきたことやものを、今からは私たちが伝えていく、伝わっていくように変えていかなければいけないと思います。」と語りました。
テーマ3「アニメ芸術としての民話」、人気声優さんが会場でアフレコを披露
最後のテーマは「アニメ芸術としての民話」。制作過程で特に技術的にこだわった作品が上映されました。
登壇したのは、アニメ・映画で声優として活躍されている二人、「おかあさんといっしょ」ファンターネ!マーキー役・四宮豪さんと同じく「おかあさんといっしょ」ガラピコぷ〜 ムームー役・冨田泰代さん。そしてアニメーション監督でありアニメーション演出家、アニメーター、漫画家でもある樋口雅一さんです。
アニメ界での昔ばなしの魅力や価値について語られた樋口さん。今のアニメは完全分業制だそうですが、昔ばなしは1作品が5分から10分のため、ストーリーからアニメーションの動き、どんな演出にするかなどを作家一人で完結することができるそうです。「昔ばなしは、クリエイター自身の個性や思いをつぎ込んでつくることができる、とてもやりがいのある、貴重で楽しくありがたい仕事なんです」とクリエイターにとっての魅力を熱く語る樋口さん。
冨田さんは『海ノ民話』について「『まんが日本昔ばなし』を観ていたので親近感があり、懐かしく感じました。漁師さんの服装はこんなだったんだと、日本文化も垣間見ることができますね」と話しました。
「絵柄も含めて絵本に近いイメージがありますね。アニメーションなのにページを1枚1枚めくっている感じがあって、親しみやすく取り組みやすいと感じました」と述べたのは四宮さん。その時代の流行りや土地の風習など、細かいところまでしっかり描かれているのが面白いですね」と語りました。
そしてなんと四宮さんと冨田さんは、「竜王の子の約束」という『海ノ民話』の一場面のアフレコを会場で披露!一人で何役も声を変えて演じる様子に来場者が感激し、盛り上がりました。
最後にお三方より「海ノ民話のまちプロジェクト」に対する期待が寄せられました。
冨田さん「郷土愛や自分のまちへの誇りも育む『海ノ民話』。遠くの学校同士をオンラインでつなぎ、自分のまちの『海ノ民話』を見せ合ってまちを紹介する。子どもたちがそんな語り部になって、『海ノ民話』が拡がっていけばいいなと思います」
四宮さん「このプロジェクトがいろんなかたちで拡がってつながっていって欲しいですね。今は標準語で収録していますが、例えば、愛媛のみなさんが愛媛の言葉で声を入れるなど、現地バージョンができると面白いなと思っていて、僕たちも参加したいという夢を持っています」
樋口さん「ものをつくる立場として、昔ばなしをアニメにする機会があるのは本当に嬉しいことです。これからもどんどん作品をつくって欲しいと期待しています」
最後に海野常務から、プログラムの総評と2023年度の展望が3つ紹介されました。
展望の一つは「海ノ民話のまち」ネットワークの構築。二つ目は、有識者ネットワークの構築。民話に関する包括的な資料の制作にチャレンジしたい!と熱く語りました。三つ目は、漁師の方々、作家の先生など異業種異分野との繋がり。これについて海野常務は、「ARやVRで子どもたちが民話の世界へ没頭して楽しめるような環境づくりも行っていきたい。」と展望を述べました。
以上で第一部は閉幕し、第二部では、初公開の新作アニメを含め、これまでに制作した『海ノ民話』27作品を一挙上映。アニメファンやお子様連れのお客様が楽しんでいました。
●『海ノ民話のまちプロジェクト』YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@uminominwa/
イベント名称 | 「海ノ民話アニメーション上映会」2022 |
日時 | 2023年1月22日(日) |
会場 | WITH HARAJUKU HALL |
主催 | 一般社団法人 日本昔ばなし協会 |
共催 | 日本財団 海と日本プロジェクト |
プログラム | 【第1部】<オープニング> ・『海ノ民話のまちプロジェクト』始動の背景、海ノ民話を活かした取り組み事例、「語り継がれる民話のチカラ」、「地域を豊かにする海文化」「アニメ芸術としての民話」という3つテーマで作品を上映し多彩なゲストとともに民話やアニメ化、今後の展望などについて深堀りトークを展開。 【第2部】 <北海道から沖縄まで「海ノ民話」アニメ作品を一挙上映> ・2018年から2022年までに制作した全国各地の「海ノ民話」のアニメ作品27作品 を上映。 |
「海ノ民話のまちプロジェクト」は、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として、海と深く関わりを持つ日本の「海との関わり」と「地域の誇り」を子供たちに伝え語り継ぐことを目的に、日本各地の海の民話をアニメ作品にしています。作品が完成したら各自治体を表敬訪問し、上映会の開催や観光資源づくりなど、アニメ作品を地域資源として活用いただいています。
このような作品の舞台となった地域で、海ノ民話アニメを活用したさまざまなコラボレーションが生まれたことが評価され、2021年度に制作した10本の作品が、日本で唯一のアニメと異業種とのコラボを表彰する『京都アニものづくりAWARD2022』地域創生部門の銀賞を受賞しました。
●『海ノ民話のまちプロジェクト』公式サイト:https://uminominwa.jp/
団体名称 :一般社団法人日本昔ばなし協会
URL :https://www.nippon-mukashibanashi.or.jp/
日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。
https://uminohi.jp/
外務省 SDGsサイト「JAPAN SDGs Action Platform」における「持続可能な開発のための2030アジェンダ 仮訳(PDF)」によると、以下のように記載があります。
目標14 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
14.1 2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。 14.2 2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。 14.3 あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化し対処する。 14.4 水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。 14.5 2020年までに、国内法及び国際法に則り、最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全する。 14.6 開発途上国及び後発開発途上国に対する適切かつ効果的な、特別かつ異なる待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃し、同様の新たな補助金の導入を抑制する**。 **現在進行中の世界貿易機関(WTO)交渉およびWTOドーハ開発アジェンダ、ならびに香港閣僚宣言のマンデートを考慮。 14.7 2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる。 14.a 海洋の健全性の改善と、開発途上国、特に小島嶼開発途上国および後発開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上のために、海洋技術の移転に関するユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを勘案しつつ、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う。 14.b 小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する。 14.c 「我々の求める未来」のパラ158において想起されるとおり、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用のための法的枠組みを規定する海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化する。